荒井さんのこと
3代続く木地師として「丸祐製作所」を営む荒井勝祐さんは、1964年会津若松市生まれ。
「世界を股にかけるレーサーになりたいと思っていたので、実は最初はお金を稼ぐための仕事という感覚で始めました。」木地の道に入った頃のことをふり返り、荒井さんはそう語ります。
元々バイクが好きで、峠やサーキットでよく走っていたという荒井さんは、高校の機械科を卒業後、関東の大手自動車会社に就職しました。その後、会津に戻ってきて家業を継いでからも、レーサーになる夢はしばらく変わらなかったそうです。
それでも、仕事をしているうちに木を挽く面白みが分かってきたと話す荒井さん。「自分の手で思い通りの形ができるっていうのもやっぱり楽しいし、注文した人が喜んでくれるようなものが作れた時は一番楽しいですね。」
そんな荒井さんの、木地づくりへのこだわりを聞いてみました。
「木を挽くだけなら、長年やれば誰でもできるんです。でも、買ってくれる方、注文してくれる方が自分の作ったものを使うときのことまで考えて、納得してもらえるようなものを作ることが大切だと思っています。」
寸法をきちんと守ったり、滑らかなラインを保ったりと要所を押さえ、美しく使いやすいものを作ることが最大の付加価値だと話す荒井さんは、ひとつひとつの木地作りに日々丁寧に取り組んでいます。
今でも、峠を走れば今でも若い者には負けないと語る荒井さん。忙しい仕事の合間に、バイクや釣り、バドミントンなど、様々な趣味を楽しんでいるハツラツとした職人さんです。


荒井さんのうつわ
「丸いものならほとんど何でも作ります」と話す荒井さんの技術の素晴らしさは、繊細な刃物使いに凝縮されています。
荒井さんのおじいさんとお父さんは、共に石川県山中漆器の産地で技術を磨いた木地職人。そのお二人から指導を受けた荒井さんも、山中流の技術を会津漆器に活かしています。
一番の違いは、ロクロを回す時の体に対する器の置き方。通常、会津の職人さんは、体に対して器を正面に置いて回しますが、荒井さんは横の向きに配置します。
正面向きは大きなものを挽くのに適していますが、横向きの場合には、小さなものや筒状のものを作ることに適しています。
「茶筒などの蓋物(ふたもの)をやらせたら、会津では荒井さんの右に出るものはいない」そう言われる由縁がここにあります。
漆器の蓋物で、特に難しいのは、木のゆがみを調整しながら削ること。
木材はどんなに乾燥させても、少し削るだけで外気に触れると微妙に木がゆがんできます。蓋物の場合には、通常の器以上に気を使うため、少し削っては乾燥させ、削ってはまた乾燥させ、というテマヒマをかけます。
さらに、荒井さんは、その後の工程である塗りの厚みまで計算して、削り上げていきます。そうして生まれた荒井さんの蓋物は、まるで桐箪笥のようにスッと気持ちよく閉まります。
そんな荒井さんは、木地師らしく、木の温もり、持った時の感触、安らぎや癒しが伝わるように、日々研究を重ね、新鮮な驚きに溢れた商品づくりを続けています。「木のある暮らし」を意識した器たちは、洋室にもよくマッチする現代的な商品も多く、若い方にも好評です。
茶筒はもちろん、コーヒー豆入れ、線香入れ、ナツメや香合などの茶道具、お皿や小鉢まで、木の質感を大事にしたウッドクラフト系の商品が揃っています。


荒井さんの工房
田園の中にある荒井さんの工房には、やわらかな空気が流れています。
それは、大きな窓から差し込む太陽の光と、工房の中に積まれた木の色合いと匂い、そして中央に置かれた年代物の大きなストーブのせいかもしれません。
会津だけでなく他県からも来る沢山の仕事をこなす荒井さん。
その工房には、大小様々な木地見本が置かれています。
それを見るだけでも、こんなにいろいろな形ができるものかと、楽しくなってきてしまいます。
自作である様々なカンナを使い分け、繊細に木を削っていく荒井さんの技をぜひ間近で見てみてください。
型を用いて量産する方法ではなく、より良い仕上がりになる手挽きにこだわる荒井さん。では、沢山の注文を同じ寸法に仕上げていくにはどうするのでしょう?そこには、職人として体に染み込んだ感覚と同時に、これまた自作の様々な秘密道具があります。
また、荒井さんの工房にある面白いものの一つが、蓋を少しねじるだけでキュッと閉まる「ネジ切り」と呼ばれる細工もの。
どんな仕掛けになっているか、是非、あなたも荒井さんに見せていただいてください。


テマヒマうつわ旅だけの制作体験
他ではなかなか出来ない!ペン立てづくりに挑戦!
料金:1,000円/1人、所要時間:約20分
工房の中で荒井さんが直接指導する木地挽き体験。
実際にロクロに向かって、カンナを持って木地を挽かせてくれる体験は、他では、なかなかありません。
あらかじめ荒井さんが作ってくれた「ペン立て」にお好きなスジ入れていただきます。
出来上がった作品は、当日お持ち帰りいただけます。

丸祐製作所
所在地:会津若松市町北町上荒久田字村北77
訪問可能時間:9:00~18:00
工房でできること:
- 工房見学
- お買いもの
- 制作体験
- オーダーメイド
- 漆器修理
※紹介している工房は、お客様の受け入れを常時しているところばかりではありません。
そのため、各工房に直接連絡されることはお避けいただき、必ずこのページからお問い合わせ・お申し込みいただきますよう、お願い致します。
スパッと気持ち良く閉まる蓋物。
会津漆器は分業制となっており、私の担当する木地は、一番最初の工程です。その後の工程である塗りの職人さんが良い仕事ができるよう、心を込めた丁寧な仕事を心がけております。お客様へ直接作品などを販売する機会をいただいた時には、何が今求められているのかとても参考になります。またお客様の反応を直に見られる時間は、職人として緊張と共に喜びを感じる瞬間です。