「テマヒマうつわ旅」のはじまりに寄せて
投稿日:2013年10月28日(月) カテゴリ:テマヒマうつわ旅ニュース
「伝統工芸は何故、残さなければいけないのか?」
2005年、弊社・明天の創業時、ある方から投げかけていただいた問いが、この言葉でした。
それ以来、この言葉が、僕にとっての座右の銘ならぬ「座右の問い」となりました。
「日本人として、日本の伝統は大事にしなきゃいけない。」
「昔から続いてきたものが、なくなったら寂しい。」
う~ん・・・。それはそうなんですが、なんとなく、しっくりきません。
この問いの意味するところの答えとして、完璧ではない気がします。(少なくとも僕は。)
ただ、僕が知っているのは、とにかく、人の手がつくり出すものづくりの現場は、この上なく面白いということです。
実際に僕自身、漆器というものに段々のめり込んでいったのは、何度も何度も職人さんたちの工房に足を運び、作る姿を見て、いろいろな話を聞かせていただいたからです。
例えば、1本の漆の木から取れる漆の量、木地師さんが木を寝かす年数、塗り1回の厚み、塗り師さんが漆を乾かす方法、お椀の底が厚めになっている理由、蒔絵師さんが蓋と本体の絵柄を続けて描く方法、それぞれの工房にある道具はどうやって作るのかなどなど、それぞれに、びっくりするような面白い話がわんさかあります。
「伝統工芸は何故、残さなければいけないのか?」
その問いに対する答えは、その答えを探す中にはない。
いつしか、そう感じるようになってきました。
モノとしての「漆器」は今、少し人々の生活から縁遠いものになってしまっています。
値段が高そう、扱いが面倒そう、良さが分からない、そもそも使ったことがない・・・そんな声がよく聞かれます。
漆という原料がどんなもので、製品はどんな風に作られていて、どんな特徴があって、生活の中でどう使ったら楽しいのか。それを知る人が少なくなってしまっています。
でも、そんな方々でも、実際に工房に足を運び、職人さんから様々な話を聞き、その技を間近に見ていただくと、漆器に対する印象が180度変わり、「漆器ってこんなに面白いものだったんだ」「これを見たら、漆器は全然高いと思えない」「職人さんに惚れた」「是非この職人さんが作った商品が欲しい」と言ってくださる様子を目の当たりにしてきました。
実際に僕の8年間の経験上、漆器の工房に沢山の方をお連れした中で、面白くなかったという方や感動しなかったという方は、一人もいませんでした。
そして、そんなお客様の姿を見た時、職人さんたちのはにかむ顔のすき間に浮かぶ誇らしげな笑顔からは、こういう仕事が残っていく希望を感じるのです。
だから、「対話」「体験」「感動」から漆器の良さをもう一度、世の中に広げていけないだろうか?
使う人(売る人も含めて)と作る人が「出逢って、語り合って、好きになる」そんな当たり前のことを取り戻せないだろうか?
そう考えました。
人と人が直接出会う場の力を信じたいと思いました。
そして、漆器が漆であるということを諦めたくないと思いました。
そして、そのことに賛同してくださった職人さんたちによって出来たのが、この「テマヒマうつわ旅」です。
私たちがしたいのは、観光サービスでもなければ、売る人をないがしろにすることでもありません。
日本人が受け取った、とても不思議な自然からの贈り物である「漆」という素材。
生活に「静かな時間」を与えてくれて、塗り直しができる漆器という器。
それを愛する人を一人でも増やしたいということだけです。
そして、その先には、
「伝統工芸は何故、残さなければいけないのか?」
こんな質問など必要なくなる、そんな日本を夢見ています。
2013年10月 テマヒマうつわ旅 主宰 貝沼 航
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案内人について

漆とロック株式会社(Urushi Rocks Inc.)代表
貝沼 航(Wataru Kainuma)
1980年福島市生まれ。大学卒業後に会津若松市に移住。漆器づくりの現場に魅せられ、2013年より、木と漆という自然の素材の魅力や職人さんたちの手仕事の意味を実際に現場で体感できるガイドツアー「テマヒマうつわ旅」を展開。
2015年、世代を超えて受け継ぐことをテーマにした新しい会津漆器「めぐる」を販売開始。同年、グッドデザイン賞とウッドデザイン賞・審査委員長賞を受賞。会津で国産漆の植栽活動に取り組むNPOの副代表も務める。漆と人を繋ぐコミュニケーターとして、漆器の魅力を伝える講演やイベントも行っている。